ご挨拶

理事長 保科正樹 保科正樹理事長

 2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、2030年に向けて再生可能エネルギーの導入量を一層拡大していくことや、2023年頃を目途にALPS処理水を海洋放出することなどが示されました。一方、二酸化炭素(CO2)の排出削減に貢献する電源である原子力発電は、2030年時点でこれまでのエネルギーミックスの電源構成で示された20〜22%を維持することとされましたが、活用に関しては不透明な状況が続いています。水産分野では、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化の両立に向けて、引き続き、資源調査、評価の拡充をはじめとする諸施策が推進されています。

 東電福島第一原子力発電所の事故から10年が経過し、海域環境や海産生物の放射性物質レベルは一部を除き事故前の水準に低減してきていますが、福島県産水産物などの輸入規制を続ける国は残っています。このような中、福島県沿岸の漁業では、段階的に水揚げを増やし、数年で本格操業に移行することを目指しています。水産物の安全性や海域環境の健全性に対する理解を広く醸成していくためには、継続的な知見の収集と情報発信が必要です。また、再生可能エネルギーの主力電源として大量導入が期待されている洋上風力発電では、建設コストの低減に加えて、漁業を含む利害関係者の理解と協調が重要な課題となっています。

 海生研では、「エネルギー生産と海域環境の調和」と「安心かつ安定的な食料生産への貢献」に寄与することを目指して調査研究を進めています。東電福島第一原子力発電所事故の収束ならびに原子力発電の安定運用に貢献できるように、海域の環境や生物に係る放射性核種のモニタリングを継続するとともに、ALPS処理水の海洋放出に備えて、モニタリング対象核種の拡大や分析手法の高度化などに取り組みます。洋上風力発電に関しては、研究所の研究資源を結集し、漁業影響評価に役立つ手法の開発や知見の収集を通して、円滑な導入拡大に寄与していければと考えています。加えて、CO2の海底下地層貯留や新たなエネルギー資源開発における海域環境への影響を評価し、解明する手法の開発、水産資源調査、種苗生産技術の開発などにも取り組んで参ります。

 海生研は、エネルギー産業をめぐる社会情勢の変化に的確に対応して、海産生物に係る環境問題の解決に関する社会の要求に応える研究機関であり続けることを目標に引き続き努力する所存ですので、皆様方のご支援、ご指導をお願い申し上げます。