ご挨拶

理事長 保科正樹 保科正樹理事長

 2023年7月に世界の平均気温が過去最高となり、国連事務総長が地球沸騰の時代の到来と警鐘を鳴らしたことは、地球規模で気候変動が進んでいることを再認識させました。二酸化炭素の排出量削減に向けて、わが国では、洋上風力発電の沖合展開に向けて政府による検討が始まりました。原子力発電については、電力の安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立、2030年度電源構成に占める原子力比率20~22%の達成に向け、原子炉の再稼働や次世代革新炉の開発、建設等に取り組むこととされました。

 福島第一原子力発電所事故による海域環境や海産生物の放射性物質の濃度レベルは一部を除き事故前の水準に下がってきており、福島県沿岸の漁業では、本格操業への移行を目指して水揚げの拡大に取り組んでいます。このような中、2023年8月に発電所敷地に貯蔵されてきたALPS処理水の海洋放出が始まりました。

 水産分野では、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化の両立に向けて、諸施策が進められています。

 海生研は、「エネルギー生産と海域環境の調和」と「安心かつ安定的な食料生産への貢献」に寄与することを目指して調査研究を行っています。

 原発事故後、継続して実施してきた東日本の水産物と海洋環境の放射性核種のモニタリング調査及び2023年に開始したALPS処理水の放出口付近で採捕したヒラメ等のトリチウムの迅速分析については、引き続き最優先課題として取り組んで参ります。洋上風力発電においては、漁業を含む利害関係者の理解と協調が重要な課題であり、漁業影響評価に役立つ手法の開発や知見の収集を通して、円滑な導入に寄与していきたいと考えています。

 加えて、二酸化炭素の海底下地層貯留が海洋環境に与える影響の評価、水産資源調査、種苗生産技術の開発等にも取り組んで参ります。

 2022年に開始した水産資源の持続的利用や環境の保全等に配慮した養殖管理に積極的に取り組む事業者等を認証する、マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)の認証事業については、的確な認証の実績を積み上げることにより、皆様に信頼される認証機関となることを目指して参ります。

 海生研は、将来にわたり海洋生物に係る環境問題の解決に際して、社会の要求に応える研究機関であり続けることを目標に努力する所存ですので、皆様方のご支援、ご指導をお願い申し上げます。