(その74)

シロギス

 砂浜で夏,投げ釣りでねらう魚と言えばシロギスがあります。シロギスは,大きさの割に引きが強く釣って楽しく,また,天ぷらの種として欠かせない食材でもあり,日本では身近に感じる魚の内に入るのではないでしょうか。以前,真夏に砂浜の浅瀬をゆっくりと泳ぐシロギスの姿を見かけたことがありますが,泳ぐ姿はとても涼しげで,まるで夏の暑い最中,和服姿でしゃなりしゃなりと歩く女性のイメージと重なるものがありました。そんなおしとやかなシロギスではありますが,夏の夜の生態は実にたくましいものがあります。シロギスの産卵期は夏です。水温がだいたい25℃を上回ると,ほぼ毎日,日が暮れてから産卵を行います。1尾の雌の産卵数は1〜2万個,直径が0.7mm程度の分離浮遊卵で,産卵後は卵塊にならずに海面上に散らばります。さらに,夏の環境(昼間の日長と水温)を人工的に維持すると,ほぼ毎日,1年以上にわたって産卵を続けたとの記録もあります。
 天然のシロギスの産卵は暗くなってからですが,かつてある研究者が人工照明で昼夜を逆転させて飼育したところ,シロギスは昼間のほぼ決まった時間帯に産卵するようになり,さらに,昼間(点灯)の時間を早く終わらせても産卵の時間帯は変わらないことを見出しました。つまり,シロギスは暗くなってから産卵をするのではなく,明るくなることで,所謂,産卵の遅延タイマーのスイッチが入るのです。
 釣って楽しい,食べておいしい,研究対象として興味深いシロギスですが,ここ柏崎の浜ではめっきり釣れなくなっているようです。新潟県水産海洋研究所の報告によれば,秋田や山形でもシロギスは不漁の傾向にあり,シロギス資源量は広域的に減少しているそうです。昔から研究材料としてシロギスに接してきた海生研の人間としては,シロギス減少と聞くと寂しくはありますが,一層の興味をかきたてる問題でもあり,シロギスの資源回復の一翼を担えないものかとも考えております。

実証試験場長堀田公明

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