海洋環境における放射能調査
 全国の原子力発電所の周辺や原子燃料サイクル施設沖合海域における漁場環境の安全性を見守るため、海産生物、海底土および海水を対象とした放射能調査などを行い、国が実施する「海洋環境における放射能調査及び総合評価事業」の一環として基礎資料を取りまとめています。
 
■原子力施設などの沖合漁場における放射能調査
 経年的に実施してきた調査結果の一例として原子力発電所等周辺15海域の海水(表層水)のセシウム-137とストロンチウム-90の放射能濃度の推移を示します。
 ストロンチウム-90の放射能濃度は、調査を開始した1983(昭和58)年度時点ですでに海洋環境で見出されており、以降の調査でその放射能濃度は緩やかな減少傾向で推移していたことを確認しています。同様にセシウム-137についても、1986年度の試料の一部でチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故の影響と考えられる高い値を示しましたが、その後は緩やかな減少傾向で推移していました。
 しかしながら、2011年度の調査では、東電福島第一原子力発電所事故に起因する高い値が一部の海域で確認されました。2012年度以降の調査においても引き続き福島県沖の海域を中心に、一部の海域で事故以前の過去5年間(2006~2010年度)の測定値を上回る試料が確認されました。2021年度の調査では、海産生物や海水から見出されるセシウム-137とストロンチウム-90の放射能濃度は東電福島第一原子力発電所事故前のレベルとほぼ同様になっています。
 

原子力発電所等周辺15海域の海水(表層水)の調査結果
従来のベータ線(β線)計測では、セシウム-137とセシウム-134を区別して計測できません。東電福島第一原子力発電所事故に由来するセシウム-134を含む可能性があることから、2011年度の分析結果についてはセシウム-134とセシウム-137を合わせた放射性セシウム(セシウム-134+137)の値として示しています。一方、2012年度はセシウム-134とセシウム-137を区別して分析できるガンマ線(γ線)計測によって分析しており、グラフはセシウム-137の値を示しています。ちなみに2010年度までの分析もベータ線計測ですが、セシウム-134は事実上含まれていないと考えられるため、すべてセシウム-137の値として示しています。
     
■解析調査
 調査結果をみると、海域や生物種の違いにより放射能濃度に差がみられます。この差が生じた原因や機構の解明などの総合評価に必要となる補完的な支援を、解析調査として行っています。
 解析の一例として、海産生物に含まれる組織自由水型トリチウム(TFWT)と原子燃料サイクル施設沖合海域で採取した海水に含まれるトリチウムの放射能濃度の経年変化を示します。海産生物に含まれるTFWTの放射能濃度は、2006~2008年度のアクティブ試験(実際の使用済み燃料を用いてプルトニウムを抽出する試験運転)に際して一時的に上昇しましたが、その後は、試験以前の放射能濃度まで減少し、海水に含まれるトリチウムとほぼ同じ放射能濃度の範囲となっています。
 
 


海産生物のTFWTの放射能濃度の経年変化
NDは検出下限値以下を示す。また、図中の青色の範囲は各年度の原子燃料サイクル施設沖合海域で採取した海水に含まれるトリチウムの放射能濃度の範囲を示す。