科学情報の力と情報提供 2017.1.1 (No75)最終回
     
     昨年の10月24~28日まで,スロベニア共和国で開催された国際捕鯨委員会(IWC)に農林水産省顧問として出席しました。会議では,昔から捕鯨に反対のEUなどの反捕鯨国は,鯨資源が日本のせいで枯渇していると主張していますが,この認識は誤りで,反捕鯨国の多くは,数百年前に鯨油を目的とした捕鯨を開始し,数十年前まで大捕鯨国でありました(※1)。また現在では,シロナガスクジラなど一部の種類を除き,多くの種類の鯨類は商業捕鯨が可能な程度に資源が回復しています。一方,日本やノルウェー,アイスランドは,国際捕鯨取締条約の元々の目的である持続的利用に沿って,鯨類の持続的な利用や調査を実施しています。更にアフリカ,アジア,カリブ海諸国などの20以上の発展途上国は,鯨類の餌となる魚類の漁獲禁止,鯨類による魚類の大量摂取(※2)を強く懸念し,自国沿岸漁業振興と食料の確保のため,日本の主張を支持しています。数の上では日本は依然少数派ですが,途上国の支持拡大により支持国数は増えました。

 この会議を通じ,海生研の扱う環境問題との関係で,考えさせられるところがありましたので,述べさせていただきたいと思います。

1. 科学情報は強いこと
   IWCにおける支持拡大は,日本がこれまでの科学調査で集積した科学情報を示すことによって得られたものです。日本の調査により,鯨類の現存資源量,増減傾向,生殖,摂食などに関し,多くの事実が明らかとなっています。
2. 報道に対する対応
   今回のIWCの会合には日本から多くのプレスが取材に来ておられ,毎日お会いしていました。彼らからは,単にホームページに掲載しても読んでもらうことは難しく,広く周知するのであれば,その都度,直接報道関係者に情報提供すること,また英文の翻訳資料など正確な情報提供が必要であるとの指摘がなされました。

 海生研も放射能など環境問題を扱っており,非常に感情的・政治的に難しい問題です。我々としては,最も合理的で関係者の皆様が納得していただける解決のため科学情報を提供するのが仕事と認識しています。また,漁業関係や電力関係の方々に説明していくとともに,報道関係の方々にも,タイムリーかつ丁寧に説明していきたいと考えています。

理事長香川謙二

※1   例えば,現在も枯渇状態にあるシロナガスクジラについて戦後最多の捕獲数であった1946年の例を見ると,日本の捕獲数が693個体であったのに対し,イギリスでは2,078個体でした。
※2   人間による漁獲の3~5倍と試算されています。現に日本周辺で鯨類によるイワシ,サンマ,イカなどの大量摂取が確認されています。

今回をもって「エッセイ 沿岸潮流」を終了させていただきます。
海生研ウェブサイトで2010年(平成22年)から開始され,全75回の掲載を行いました。その時々の海生研幹部が,日々の中で感じたこと,気づいたことを思いつくまま書き綴ったもので,筆者の人となりを感じていただけたかと思います。
これまで本エッセイを楽しんでいただいていた方々には,この場を借りてお礼申し上げます。いずれまた,別の企画にてお目に掛かれれば幸いです。

海生研 広報チーム